2012年12月23日日曜日

開催報告 東海大学 家庭医療ワークショップ


プロジェクトスタッフの菅家です。
12月8日に東海大学で行われた、家庭医療ワークショップの報告が届きました!!

頂いた報告は参加した学生の皆さんが作成してくださったもので、当日の熱気が伝わってくる文章になっています。長文ですが、ぜひご覧ください!!

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東海大学家庭医療ワークショップ

場所:東海大学 伊勢原キャンパス 3号館2階204教室
時間:2012年12月8日(土) 14:00~18:40

主催:東海大学医学部勉強会サークル T-action
共催:日本プライマリ・ケア連合学会 若手医師部会
   「ジェネラリスト80大学行脚プロジェクト」
   日本プライマリ・ケア連合学会 学生・研修医部会 関東支部
   東海大学総合内科/東海大学医学振興会



講師:
西村真紀先生(川崎医療生活協同組合 あさお診療所 所長)
小宮山学先生(湘南真田クリニック 院長)
桧原史子先生(諏訪中央病院)
岡田唯男先生(鉄蕉会 亀田ファミリークリニック館山 院長)
高木敦司先生(東海大学総合内科)




『家庭医とは何?初学者のための家庭医”超”入門』
講師:湘南真田クリニック 小宮山 学先生

伊勢原市の隣,平塚市で家庭医療を実践されている小宮山先生の講演です.最近よく耳にする“家庭医”“総合診療医”“プライマリケア”・・・漠然としたイメージはもっているけれど,具体的にどんなことをしているのかわからない,そんな初学者のために小宮山先生が3つのテーマでお話ししてくださいました.私はまさにそんな初学者の1人だったのですが,先生の分かりやすく興味深いお話を聞いて,目からウロコが落ちる思いでした.またこれからの医療とはどうあるべきか,自分はどんな医療を実践していくか,改めて考えさせられる機会でした.

テーマ① 家庭医って何?
“医療”と聞くと,私たちは“診療科別”,“臓器別の専門医”を思い浮かべます.実際に病院には必ず診療科が標榜してあり,病気かな?と思ったら,症状のある臓器の診療科を選んで病院にかかります.ところが多くの場合,1人の人が同時に複数の健康問題を抱えているので,複数の診療科,複数の病院を掛け持ちすることになります.

例えるならば,家庭医は小学校の先生,臓器別専門医は高校や大学の教科別の先生のようなものだそうです.学校は小学校に始まり,中学・高校・・と教科ごとに深く学んでいきます.小学校の先生が1人で全教科の基礎を教えつつ,生活習慣や家庭など,勉強以外のことにも幅広く関わるように,家庭医は基本的な病気やケガ全般を扱い,患者さんのもつ複数の病気を包括的に診ます.家族にもかかわったり,健康な人に対して予防医療も行います.家庭医は広い接点で患者さんやその家族,地域にも関わっていく総合医なのです.

では,総合医でも家庭医と総合内科医では何が違うのでしょうか?例えると小学校の先生(→家庭医)と中学校の先生(→総合内科)なのだそうです.家庭医は「外来診療中心,疾患と生活の両方の接点をもち,子供から大人まで診る」のに対し,総合内科はどちらかというと「病棟中心,より専門的な知識を必要とする疾患,主に成人の内科疾患を対象とする」のです.

このように,医療には家庭医,総合内科医,プライマリケア医,General Practitioner,ホスピタリなど,在宅医・・・など,臓器の枠組みを越えたいろいろな分野があるのです.

 ・・・ここまでお話を聞いたところで,気持ちよさそうに伸びをしている猫のスライドが登場.「はい,みんな伸びをしましょう^_^」と小宮山先生.全員うーん,と体を伸ばして深呼吸.リフレッシュしたところで次のテーマへ.

テーマ② 家庭医の「専門」?
“総合”医の“専門”とは何か,ということを考えます.
1.家族志向性アプローチをする
2.病気を発症する前に生活習慣にも関わっていく予防の専門医である
3.継続的なケアの専門医,即ち主治医である
4.患者さんを中心として,その周囲の福祉,行政の連携や調整,チーム医療の専門医
5.地域志向性アプローチ
ということです.「総論的なあたりまえのことを理念や道徳でなく知識体系に基づき技術と誇りをもって実践している」のです.

・・・と,再びここで「はい,ハイタッチ!^0^」と小宮山先生の一言.今度は隣の人とハイタッチをして盛り上がったところで最後のテーマに入ります.

テーマ③ パラダイムシフト
最後のテーマはパラダイムシフト.小宮山先生が考えるこれからの医療についてお聞きしました.

過去当たり前と考えられてきたことが,現在では疑問視されていることがある.(例えば,ロボトミー手術など)時代が変わり,社会が変われば,価値観や考え方は劇的に変わることがあります.これから少子高齢化で人口構成はがらりと変わり,社会構造も変わっていくでしょう.これまでの医療では,病気を治して命を救うことに何の疑問もありませんでしたが,この考え方にパラダイムシフトが起きる可能性もあるのです.いままでの考え方は絶対的ではなく仮説となりうるのです.

平均寿命200歳の世界は幸せだろうか?病院や施設で寝たきりで命をつなげていることが幸せだろうか?2055年65歳以上人口が4割を超えたときに,医師は,医療はどんな役割を担えばよいのでしょうか?

一番大切なことは,“パラダイムを捉える力を養うこと”.患者さんや社会が必要とする医療を自分で見極め,そして対応していくことが大切なのでは,という先生のメッセージでした.
(東海大学医学部2年 塚原 麻希子)

『家庭医的アプローチ~患者の立場に立ってみよう~』 
講師:諏訪中央病院 桧原史子先生

WSを通して,家庭医が普段どういったことを考えながら問診しているかを理解し,患者の立場に立って考えるための技術として「かきかえ(FIFE)」を学びました.

「かきかえ(FIFE)」とは
か 解釈(ideas)
き 期待(expectations)
か 感情(feelings)
え 影響(function)
の4つをまとめたものです.
解釈とは,患者にとって自分の病気をどう考えているのかをたずねること.
期待とは,患者が医師,医療者に何を求めて来院したかをたずねること.
影響とは,今起こっている問題が,患者の日常生活や人生に与える影響をたずねること.
感情とは,今,どんな気持ちでいるのかをたずねること.

こういった4つのことを問診中にたずねることによって,患者は医師が自分の話を聴いてくれていると感じて,ラポールが形成しやすくなり,医師も患者の考えていることを知ることによって,より円滑に医療を進めていくことができます.

WSでは,実際に2人1組になって医師役と患者役に分かれ,「かきかえ(FIFE)」を使いながら問診を進めていく練習をしました!いざやってみると・・・・難しい!!!
まず,5分以内に問診をするということで始めたんですが,「かきかえ(FIFE)」まで聴き終わりませんでした!そして,問診の中でどのタイミングで正しいのかわからずにあたふた・・・練習が必要だなと思いました.

でも,実際に患者の側になって「かきかえ(FIFE)」を聴いてみると,確かに,話を聴いてもらえているように思いました.また,医師の立場としても,患者さんと良好な医師―患者関係を築きやすくなるなと思いました!
これからも,学んだことを実践していきたいと思います!!!

(東海大学医学部5年 貴達 俊徳)

『キャリアデザイン 〜医師の人生をどう過ごす?結婚・子育て・医師のキャリアについて〜 』
講師:あさお診療所 西村真紀先生

講師の西村真紀先生は新百合ヶ丘の住宅街の中で家庭医をされながら,子育て真っ最中でもいらっしゃいます.
西村先生は,まず,私たちの生活(人生)を,『プロフェッショナル(仕事)』,『社会貢献』,『プライベート(趣味・家庭)』の3つの円として描き,その3つの円のバランスはどうなっているか,どうしていきたいか?と,私たちに問いかけました.
ちなみに,先生の場合は,言わずもがなプロフェッショナルの円がとても大きいそうですが…,休日は,お子さんの部活の試合で,‘お茶汲み当番’という『社会貢献』にもお忙しいご様子(笑).西村先生の楽しいトークによって,雰囲気も和みます.
今回は「ワールドカフェ形式」ということで,この雰囲気作りも非常に大切な要素です.

ワールドカフェとは,カフェのようなリラックスした雰囲気で,あるテーマに集中した対話を行うことです.

今回のテーマは…
「10年後の自分を想像してみよう.仕事は?私生活は?」
「そこで問題になりそうなことは?」
「よりよく仕事と私生活のバランスを取るためにどんな工夫が必要?」
西村先生から,ワールドカフェを効果的に進めるために,
「自分が最も大切だと思うことにフォーカスして話しましょう.」
「感覚を研ぎ澄ませましょう.」
というアドバイスを頂き,さぁ,ワールドカフェを始めよう!と,カーテンをあけたところ…綺麗なオレンジ色の夕焼けが差し込んで来て,なんだか本当にカフェっぽいイイ感じの雰囲気になりました!

まずは,5~6人で1つのテーブルを囲み,お菓子やコーヒー頂きながら,対話スタート.テーブルには,模造紙とマジックが用意されていて,共有された意見,思ったことなど,なんでも書き込んでOKです.私が参加したテーブルでは,「10年後は専門医を取得している!」「結婚していたい!」など皆さんの夢や目標が飛び交いました.

15分経過したところで,各テーブルに1人だけ残り,残りのメンバーはランダムに席を移動します.出来るだけ違うメンバーと新たにグループを作り,再び同じテーマで対話をスタート.今回のWSには1年生から6年生,さらには現役の医師まで幅広い年齢層の方が参加してくださったので,メンバーが変わることで,まったく違った視点からの意見を聞くことが出来ました.

私が1回目に参加したテーブルでは,特に女性の方々から「10年後,結婚・子育てと,自分のキャリアと…両立するにはどんな工夫をすればよいのだろうか?」という不安や悩みが聞かれました.

ワールドカフェでは,メンバーの意見をまとめたり,最後に班ごとに発表をしたりすることもなければ,ディベートのように勝ち負けを決めたりすることもありません.「回収されない」と聞くと,模造紙もテンポ良く,カラフルに書き込まれていきます♪(笑)

更に15分経過したところで,元のテーブルに戻り,再び同じメンバーと同じテーマで対話をします.先のテーブルで出た話題などを各々がシェアしながら,更に対話は盛り上がりました.

特にファシリテーター役などもおいていなかったのですが,どのテーブルも,シーンとなることなく,盛り上がったり,みんなで悩んでいたりして,スタッフとしては正直ほっといたしました.そして,最後に,全員が,各々に「一番印象に残った言葉,思ったこと」を,1人10秒程度で発表.
「自分の好きなことをやります!」
「自分を知ることが大切!」
「仕事50,家庭50を目指します!」
などなど,実にスムーズに,十人十色な想いが発表されました!!(参加者のみなさんのご協力に本当に感謝です.)
キャリアデザインやライフデザインって,唯一無二の正解があるわけではなく,その人その人の,その時に,いちばんフィットする選択ができれば幸せなのかなー,と私は思います.

今回のWSは,ワールドカフェ形式をとったことで,「みんなで出した結論」ではなく,みんなの考えを聞いたうえでの「自分だけの結論」にたどり着く,‘ヒント’が見えてきたように感じました.
 10年後のあなたは,どんな人生を送る「あなた」ですか?
『プロフェッショナル(仕事)』,『社会貢献』,『プライベート(趣味・家庭)』の3つの円は,其々どんな大きさで,どんなバランスで,どう交わっていますか?
このWSで得た‘ヒント’を元に,自分にフィットする人生を,楽しく探し続けていきたいな,と思いました.
(東海大学医学部3年 山口美穂)

『特別講演 「ジェネラリストの魅力」』
講師:亀田ファミリークリニック館山 岡田唯男先生

午前診療を終え,早めの東海大学入りを予定されていたようですが,強風のため,千葉県から東京都内への近道であるアクアラインが通行止めで,遠回りでお越しいただきました.お気に入りのスーツ,お気に入りのシューズまでお持ちいただいていたのに着替える時間もなく,お越しいただくことになりました.
待ちに待った岡田先生の講演は,非常にユニークな切り口からのお話で,参加者全員が引きつけられるようなお話でした.

「スペシャリスト」と「ジェネラリスト」という表現は私達が学んでいる医療の世界だけでなく,昆虫の世界,動物の世界などにも存在しているそうです.検索エンジンで検索すると,医療の表現よりはむしろ虫,動物についての方がメジャーであり,その言葉の意味することは,医療における意味と同じように使われているようです.つまり,昆虫や動物における「スペシャリスト」とは,決まったものを食糧にして生きる種のことを指し,「ジェネラリスト」とは何でも食糧にして生きる種のことを指しています.つまり,スペシャリストは食糧にできるものが決まっているので,その食糧がなくなってきたら生存が危うくなり食糧のあるところに移動していかなくてはなりません.それに対してジェネラリストは何でも食糧にできるので,一定の場所で生存でき,またどんな場所でも生存が可能です.

医療に当てはめて考えてみると,同様にスペシャリストは専門にしている疾患の方がいれば専門性を発揮できるが,いなければその専門性は生かせません.ジェネラリストは一般的な疾患を診ることができるので,どんな場所でも診療が可能です.つまり,必ず求められるということです.
岡田先生にとってジェネラリストの魅力とは,「様々な疾患を診ることができるので,診療が楽しいし,飽きない.そしてどの地域でも求められるため,常にやりがいを感じ続けることができる」ということです.
日本の医療は細分化されてきましたが,近年基本的な疾患は診ることができるようにジェネラリストの重要性が見直されています.臨床研修医制度はまさにジェネラルの重要性が見直された証拠でもあります.
将来どのような診療科で働くかは分かりませんが,今日の岡田先生のお話は将来の診療科の選択に大きく参考になるお話でした.ジェネラリストの良さに魅了されました.

『対談「ジェネラリストの魅力〜それぞれの立場から〜」』 
講師: 東海大学総合内科 高木敦司先生
    亀田ファミリークリニック館山 岡田唯男先生
   
どちらの先生もジェネラリストとしてご活躍されていますが,地域のクリニックの家庭医と大学病院の総合診療医と言うそれぞれの立場で,参加者からの質問についてお答え頂きました.また,質問によっては他の講師の先生にもお答え頂きました.

「キャリアデザインについて」
岡田先生 ⇒ジェネラリストとして働いていきたいという思いがあるのなら,臓器別専門医を経るなど敢えて遠回りをする必要はないのではないかと思います.
小宮山先生 ⇒呼吸器内科医から家庭医になった立場としては,臓器別専門医の知識は生かすことができるが,専門科から離れると使わなくなる技術や治療もある.もし専門科も持ちたいと思うなら,家庭医の知識をもった臓器別専門医のほうが視野も広くなり,生かしやすいのではないかと思います.

「地域病院だからできること,大学病院だからできること」
岡田先生 ⇒地域病院は学生との接点がないことと,研究部門は弱いところがあります.ただ,色んなしがらみはないので,好きなことができるという部分があります.
高木先生 ⇒大学病院は学生や若手医師が多いので,刺激を受けることができます.また,職員数も多く,それぞれの分野のスペシャリストがいるので研究がしやすい環境があります.
それぞれの環境で良し悪しはあり,将来のキャリアアップに必要な環境を選ぶことが必要だと思いました.何れの環境でも目標設定をしておけば,しっかりとした研修は可能で,キャリアアップも可能だと感じました.
(東海大学医学部6年 中村大輔)

『まとめ』 
今回,東海大学でこのようなワークショップを開催するのは初めてでしたが,40名もの方に参加して頂くことが出来ました.参加者の方から第2回開催の要望もあり,このまま継続して家庭医療について勉強できる機会を設けていきたいと思います.
岡田先生の到着が遅れるというハプニングもありましたが,講師の先生方や参加者のみなさんのご協力で無事全てのプログラムを終えることができました.また,このワークショップを開催するに当たり日本プライマリ・ケア連合学会 若手医師部会の先生方には大変お世話になりました.この場を借りてお礼申し上げます.本当にありがとうございました.

文責:東海大学医学部医学科 6年 原嶋 渉

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