プロジェクトスタッフの菅家です。
日本プライマリ・ケア連合学会(以下日本PC連合学会)若手医師部会 80大学行脚プロジェクトは、設立当初から「大学構内での勉強会の支援」を中心に活動してきています。
現在もその方針は変わっていませんが、若手医師部会の弟分・妹分である、学生・研修医部会の活動については、当プロジェクトでも支援していく方針としています。
ということで今回は、日本PC連合学会の下部組織、学生・研修医部会関東支部が主催した企画の開催報告を、企画段階からサポートしてくださっていた、宮地先生からいただきました。
サポートする側としても、参考になる報告ありがとうございます!!
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日本プライマリ・ケア連合学会 学生・研修医部会関東支部
「家庭医×看取り 医療者のためのしゃべり場」 開催報告
北海道家庭医療学センター 家庭医フェロー 宮地 純一郎
【はじめに】
この企画は、学生の皆さんが、医療者として必要だが話題の機会が少ない「死生観」について、自発的に学びつつ、かつ家庭医療を通じて対話を深める場を持ちたいというニーズを持ったところからスタートしました。
学生教育にも携わる家庭医として、
①ワークショップ枠組みや考え方の提供
②チームビルディングのファシリテート
という2点からのサポートを提供しました。
そして、学生の自発性と学びを大切にするために、具体的なアイデアや内容へ触れることは最小限にとどめました。当日のワークショップの内容や様子については、企画をした彼ら自身からのご報告をご覧下さい。
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【全体構成について】
この会は、埼玉医科大学、横浜市立大学、筑波大学、自治医科大学の4大学が合同で企画運営をしてきました。
会の目標としては 企画スタッフが話し合いを繰り返し、以下の三つを掲げました。
1.学生から学生へ発信 (学生が発表者になる会)
2.4大学それぞれが持つサークル間の交流、活性化
3.対話*1で家庭医や死生学*2を学ぶ
(*1:対等な立場の学生同士だから「教える」というより「一緒に学ぼう」のスタンス。
*2:医療者になれば必ず考える立場になるのに学生ではあまり学ぶ場のない「死」を取り上げたい。)
以上の目標達成のために、
①conversation 、②理論、③実践、④再考
という4つのパートを用意することにしました。
そして、4大学それぞれが責任性を持ち個性がでるように上述のように各セッションを担当しました。
一方で定期的にミーティングを行うことで各セッションのつながりが乱れないようにも努めました。
更には、「落ち着いた対話のできる環境を提供する」ことを、重要なモットーとして挙げ、
音響、照明だけでなく、配布物やドリンクなどにまでさまざまな工夫を凝らしました
そのため、会全体の流れやつながりは参加者からも好評価をいただきました。
以下に各セッションの詳細を責任者の言葉でご報告します。
(自治医科大学 6年 山本 愛)
【①Conversation】
横浜市大が最初のセッション「Conversation」を企画しました。
まず、事前に参加者に宿題を出しました。
お題は「最期の日の日記」です。自分が亡くなる日を想像し、その日の日記を書いてきてもらうというものでした。
この宿題は、参加者個人の死に対する考え(=死生観)を言語化する目的で出しました。
当日はペアを組み、軽いロールプレイを行いました。一人が医療者役になり、一人が余命一ヶ月の患者役です。
医療者役は、最期を迎えつつある患者さんの心情を聞き出しました。その後、6人グループを作り、ディスカッションの時間を設けました。
上手な死生観の聞き出し方や、死生観の多様性などを共有し、セッションを終わりました。
このセッションを通して得たことが三つあります。まず、自分の死生観を言語化できました。
次に、患者さんから死生観を聞き出すことの難しさを感じました。
最後に、他の人の死生観を聞くことで、その多様性を知り、自分の死生観を深めることができました。
(横浜市立大学 4年 黒岩冴己)
【②理論】
2つ目の「理論」というセッションを埼玉医科大学では企画しました。
死生学を語る上で主観を持つことは大切ですが、少し死を客観的にとらえた上で死を語ることを目標としました。
そこで死生学のバイブルともいえるエリザベス・キュブラー・ロス著「死ぬ瞬間」を題材にあげました。
まず、最初のセッションでの最期の日記の中での感情をピックアップしました。
主観から客観へと移ること、自分の想像を上回ることが死には存在することを意識したかったためです。
その後、死の過程である否認・怒り・取り引き・憂鬱・受容の五段階を解説した上で、それぞれの過程における症例を提示し、
出来る限り抽象的に死の段階の考察と対処を考えました。
グループごとに議論してもらい、最後にキュブラー・ロスはどう向き合ったかという話をしました。
はじめは抽象度の高い議論に戸惑いもありましたが、死を客観的に考えるという作業を通して自分の中での死に対する思考力を向上させるきっかけになったと感じました。
(埼玉医科大学 5年 日下伸明)
【③実践】
自治医科大学では3つ目の「実践」というセッションを担当しました。
ここでは、看取りにおける家庭医の技術だけを学ぶのではなく、家庭医一人一人で異なる感じ方・在り方に基づいてどう看取りを行っていくのかに焦点を当てました。
流れとしては、まず佐藤弘太郎先生関わった末期の患者さんのお看取りを通して先生が感じたこと思ったことなどを30分ほど講演していただきました。
そして、その講演に対する質問を参加者にあらかじめ配布していた付箋に書いてもらい、壁に質問を分類してまとめてそれをもとに、佐藤先生、安藤先生、宮地先生と座談会を行いました。
一つの質問に対して先生方が一人一人異なる回答をしていただいたことで、今回の勉強会のグランドルールにあげていた「人との違いを楽しむ」ことができました。
また、自分自身の死生観をはっきりさせていくことが、これからの医療行為に大きく影響していくのだということが実感できました。
(自治医科大学 6年 平野貴大)
【④再考~まとめ】
最後のセッションは『再考』ということで,それまでのセッションで学んだことを生かして実際に看取りの症例に対するアプローチを考える,という試みをしました.
短時間で参加者全員が患者さんの背景について周知できるよう,『サザエさん』を題材にした架空のシナリオを作成し,
末期癌になったサザエさんに医療者としてどうアプローチするか,というテーマで議論をしました.
議論は二つに分け,前半で議論した内容からピックアップしたテーマについて,後半は議論をより深める,という流れで進行しました.
最後ということで,セッション・会全体のまとめとして、講師の先生方と私たち学生との間で対話形式のディスカッションを行いました.
話のセッションから始まった死生観の話題と,自治医大のセッションから次第に大きくなっていった家族に対するアプローチの話題について,
現場での実践経験やそこから導き出される理論などを交えつつ、よいまとめにすることができたと思います.
(筑波大学医学類3年 木村紀志)
【終わりに】
前日、スタッフは泊まり込みで予演会や懇親会を行い、私たちが大事にしたいコンテクストをスタッフ全員で共有できました。
当日は参加者(スタッフ込)53名、講師3名の計56名で対話の場を作り上げていきました。
全員が「死」を本気で考え本気でぶつかっていました。セッションを終えるごとにこの集団の成長を感じました。
終了時には全体が一体となれる場になっていました。
このような会を作ることができたのも、
宮地先生が私たちのやりたいことを踏まえながら、見守りつつ導いて下さったからです。
未熟な私たちでしたが、成長できる力を信じフォローしてくれるひとの存在でとても大きなパワーを発揮することができました。
このように大きな学びを提供して下さる若手部会の先生方にこの場をお借りしてお礼を申しあげます。
(自治医科大学 6年 山本 愛)
【WS概要】
<勉強会名> 学生研修医部会関東支部 「家庭医×看取り 医療者のためのしゃべり場」
<日時>12月11日(日) 10:00~17:15
<場所>東京都医師会館307会議室
<主催>主催:プライマリケア連合学会学生・研修医部会関東支部
(自治医大、筑波大、埼玉医科大、横浜市大)
<参加人数>合計53名;(医学生48名、看護学生・薬学生・鍼灸学科生・獣医学生・救急救命学科生1名ずつ)
<企画 (兼当日ワークショップ講師)>
自治医科大学6年 山本 愛 平野 貴大
埼玉医科大学5年 日下 伸明
筑波大学3年 木村 紀志
横浜市立大学4年 黒岩 冴己 曾原 雅子
<講師>
<詳細>
10:00 開場
10:30 開演、イントロ
10:45「Conversation」:横市…自分の死生観に気づき、人の死生観を受け入れる場
11:35「理論」:埼玉医…患者さんの死を迎える過程を学ぶ場
12:20 昼休み
13:20「実践」:自治医…家庭医の看取りの実際を知る場
(講師)
佐藤 弘太郎 先生(北海道家庭医療学センター 家庭医フェロー)
安藤 高志 先生 (北海道家庭医療学センター)
宮地 純一郎 先生(北海道家庭医療学センター 家庭医フェロー)
14:35「再考」:筑波…自分の死生観に基づき、看取りの症例を演じる場
15:30 まとめ
16:15 振り返り
16:45 活動紹介
17:15 終了
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